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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)25号 判決

東京都品川区大上崎2丁目10番45号

原告

株式会社光電製作所

同代表者代表取締役

伊藤良昌

同訴訟代理人弁理士

櫻井俊彦

兵庫県西宮市芦原町9番52号

被告

古野電気株式会社

同代表者代表取締役

国友茂

同訴訟代理人弁理士

小森久夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成1年審判第17503号事件について平成6年11月30日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「航跡記録装置」とする特許第1516845号(昭和54年4月27日出願、昭和61年9月24日出願公告、平成元年9月7日設定登録。以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。

原告は、平成元年10月23日本件特許を無効とすることについて審判を請求し、特許庁は、この請求を平成1年審判第17503号事件として審理した結果、平成6年11月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成7年1月11日原告に送達された。

2  本件発明の要旨(本件特許請求の範囲の記載)

航行位置を測定する航法装置の測定結果に基づいて絶対航行位置を航跡データとして蓄積記憶する蓄積記憶回路と、

該蓄積記憶回路に記憶している航跡データに基づいて、航行位置を認識するための、地図上の緯度、経度線等の、自船の現在位置の変化に追従しないマーカ表示要素のデータを生成するマーカ表示要素データ生成手段と、

表示器と、

前記表示器の表示画面上の各表示位置に幾何的に対応する記憶部を有し、前記マーカ表示要素データ生成手段で生成されたデータと前記蓄積記憶回路に記憶されている航跡データとを前記表示器の表示画面上の表示位置となる記憶部に記憶する表示用記憶回路と、

画面移動スイッチおよび画面の縮小、拡大スイッチを含み、前記表示用記憶回路に記憶されているデータを任意の方向へ移動させる等表示用記憶回路の記憶状態を変えることによって前記表示器での表示状態を所望の状態に設定することを指示する操作スイッチ入力部と、

を備えてなる航跡記録装置。

3  審決の理由

審決の理由は、別紙1審決書写し(以下「審決書」という。)記載のとおりであり、原告が主張した〈1〉本件発明の要旨における「表示用記憶回路」と「マーカ表示要素データ生成手段」とは、当業者が容易にその実施をすることができる程度にその構成を記載していないので、特許法36条4項に規定する要件を満たしていないとの無効理由、並びに、〈2〉本件発明の要旨における「マーカ表示要素データ生成手段」、「表示用記憶回路」及び「操作スイッチ入力部」は、当初明細書及び図面に記載された内容を逸脱して要旨変更となる補正がなされているため出願日が繰り下がるところ、本件発明はその出願前に頒布された甲第14ないし第16号証(本訴における書証番号)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をなし得たものであり、特許法29条2項の記載により特許を受けることができないとの無効理由によっては、本件特許を無効とすることはできないと判断された。

4  審決の理由の認否

(1)  審決書2頁2行ないし3頁7行(本件発明の要旨等)は認める。

(2)  同3頁8行ないし5頁11行(請求人の主張)は認める。

(3)〈1〉  同5頁14行ないし8頁末行(「表示用記憶回路」についての特許法36条4項違反についての判断)のうち、7頁17行「表示」から末行まで、及び、8頁13行ないし末行は争い、その余は認める。

〈2〉  同9頁1行ないし12頁5行(「マーカ表示要素データ生成手段」についての特許法36条4項違反についての判断)のうち、12頁4行、5行は争い、その余は認める。

〈3〉  同12頁6行ないし15行(特許法36条4項違反の主張についてのまとめ)は争う。

(4)〈1〉  同12頁18行ないし16頁7頁(「マーカ表示要素データ生成手段」に関する要旨変更についての主張についての判断)のうち、15頁11行「これら」から16頁7行までは争い、その余は認める。

〈2〉  同16頁8行ないし21頁12行(「表示用記憶回路」に関する要旨変更についての主張についての判断)のうち、19頁19行「電子計算機19」から21頁12行までは争い、その余は認める。

〈3〉  同21頁13行ないし25頁1行(「操作スイッチ入力部」に関する要旨変更についての主張についての判断)のうち、23頁1行から25頁1行までは争い、その余は認める。

〈4〉  同25頁2行ないし末行(要旨変更の主張についてのまとめ)は争う。

(5)  同26頁1行ないし3行(まとめ)は争う。

5  審決を取り消すべき事由

(1)  取消事由1(「表示用記憶回路」についての特許法36条4項違反)

審決は、本件発明においては「表示用記憶回路26の記憶内容がブラウン管表示器27の表示位置で幾何的に対応するため、言い換えれば表示用記憶回路26はブラウン管表示器27に表示される画素数と同数の記憶素子からなる容量を有するため」(特許明細書12頁13行ないし17行)の記載が、「表示用記憶回路26の記憶内容がブラウン管表示器27の表示位置で幾何的に対応する」ことの意味を定義しているとするが(審決書7頁下から4行ないし1行)、この点の認定は誤りであり、この定義と、特許明細書中の「表示用記憶回路26は、ブラウン管表示器27上に表示される画素数と同数の記憶容量を有し、ブラウン管表示器27の走査位置に対応する記憶素子の記憶内容が水平走査カウンタ30、垂直走査カウンタ31の計数値によって読み出される。読み出された記憶出力はシフトレジスタ28へ送出される。シフトレジスタ28はクロックパルス源32のクロックパルス列によって、順次読み出される記憶信号を時系列化してブラウン管表示器27の輝度端子へ送出する。」(14頁2行ないし11行)との記載から、「「幾何的」とは、表示用記憶回路26の各記憶素子とブラウン管表示器27の各画素とが相互に対応した位置関係にあることを表していることが明かであり、そのことは、当業者が容易に理解できるものと認められる」(審決書8頁14行ないし18行)と認定するが、誤りである。

〈1〉 本件発明の要旨にいう「幾何的に対応する」とは、「表示される画素数と同数の記憶素子を有する」ことのみを指すのであって、「表示される画素数と同数の記憶素子を有すれば、いかなる「幾何学的」な意味合いをもって配置された記憶配置のものも含むものと解すべきである。

〈2〉 こうした記憶配置の1つとして、例えば、参考図3(別紙2参照)に示すように、〔A〕のような記憶部の記憶配置を〔B〕のような記憶配置に変更した場合が考えられる。してみれば、こうした記憶配置の場合における構成に対しても、当業者が容易に実施し得る程度の説明の記載がなければ、当業者には容易に実施し得ないということになる。なぜならば、本件発明の当初図面の第1図のように、「垂直走査カウンタ12から水平、垂直走査回路10に向けて入力することを示す矢印」の回路構成では、表示用記憶回路14における記憶内容の水平方向の1行分を読み出す走査を行っている水平走査カウンタ11の信号を水平、垂直走査回路10に与えてブラウン管表示器1の水平走査を行ってしまうため、参考図3(別紙2参照)の〔B〕図のように記憶した場合には、同参考図の〔C〕図のようにしか表示できないからである。

また、「幾何的」は「立体幾何の空間座標」で対応するものも含むこととなるが、そうであれば、明細書及び図面には、そのような対応関係の記憶によって本件発明の実施を可能にする技術が記載されていなければならないことになる。

しかしながら、特許明細書には、相似した配置状態に対する実施例の記載はあるが、面積的に対応する又は立体幾何における空間座標で対応するという構成についての記載はないから、「表示用記憶回路」についての特許明細書の記載は、特許法36条4項に違反する。

〈3〉 被告は、ベストモードのものが特許明細書に記載されている旨主張するが、ベストモードとは、最良の実施形態又は最高の実施形態をいうものであるから、その発明が複雑な構成をも含むものであれば、その複雑な構成をも実施し得るような実施形態をも含むべきである。

(2)  取消事由2(「マーカ表示要素データ生成手段」についての特許法36条4項違反)

審決は、「本件請求人の「マーカ表示要素データ生成手段」についての主張は、失当である。」と判断するが、誤りである。

〈1〉 「航法装置の他にセンサを用いなくてもまた別の入力手段によって地図情報を与えなくても緯度、経度線等のマーカ表示要素は航跡データに基づいて生成され」ることはなく、地図上に使用される緯度、経度線は経度線間隔情報等の地図情報のデータを入力しなければ到底計算できるものではない。

ところが、特許明細書には、緯度、経度線に関する情報を与えることをうかがわせる記載はなく、また、その計算方法を示す記載もない。かえって、特許明細書では、「航跡データに基づいて」、「地図情報を与えなくても」と、地図情報、すなわち「一般の地図と同様に地図作成に当然必要な情報」が不要な点に本件発明の特徴があることを強調している。

〈2〉 被告は、「地図上の緯度、経度線・・・」の「地図」は、「地図情報を不要にする」の「地図」とは意味合いが異なる旨主張するが、「地図上の緯度、経度線・・・」が「地図表示」により表示される地図の上に画かれた緯度、経度線を指していることは明らかである。

(3)  取消事由3(「マーカ表示要素データ生成手段」についての要旨変更)

審決は、「これらの記載をみると、緯度、経度線は、蓄積記憶回路に記憶されている航跡データに基づいて生成されるものであることが当初明細書に記載されていると言うことができるし、その生成の仕方も、当初明細書に明記されていると言うことができる。上記補正は、緯度、経度線が、蓄積記憶回路に記憶されている航跡データに基づいて生成されることを述べて、そのことを具体的な緯度、経度を挙げて例示したものであると認めることができる」として、訂正明細書における「蓄積記憶回路に記憶されている航跡データだけに基づいて緯度、経度線を生成できるのは、上記蓄積回路に記憶される各航行位置データがそれぞれ絶対航行位置データだからである。例えば、東経135°、北緯30°の航行位置データが記憶されていれば、その位置を通る東経135°の経度線を直ちに生成することができる。」との補正が要旨変更となる補正に当たるとは認められないと判断するが、誤りである。

〈1〉 当初明細書には、緯度、経度線は、航跡データに基づいて生成される旨の記載はどこにも見当たらない。

被告主張の「電子計算機19は、上記のようにして、時間設定スイッチ21、縮小、拡大スイッチ21、画面移動スイッチ22の設定出力に応じて、表示用記憶回路14に航跡記憶の書込みを行なう。そして、電子計算機19は、このとき、表示される航跡を含む一定範囲内の緯度、経度線を計算して、緯度、経度線に対応する表示用記憶回路14の記憶素子に書込みを行なう。」(当初明細書8頁14行ないし9頁1行)等の記載を、「いかなる緯度、経度線であってもよいから、表示される航跡を含む一定範囲内の緯度、経度線を、いかなる計算であってもよいから計算して」を意味すると解すれば、航跡2、緯度線3、経度線4は、動作を行うたびに不定で無関係な位置に表示されてしまう。訂正公報(甲第5号証)訂41頁14行の「1は地図表示と航跡記録の行われるブラウン管表示面を示している。」との記載によれば、本件発明における構成は、明らかに「地図表示」を行っている。したがって、この「地図表示」のために何らかの方法で「地図情報」を入力し、その「地図情報」に基づいて地図を表示していることになる。してみれば、当初明細書及び図面における発明の構成でも、同様に、「地図表示」を行っているものである。そうすると、当初明細書の「電子計算機19は、このとき、表示される航跡を含む一定範囲内の緯度、経度線を、計算して」の意味は、「電子計算機19は、このとき、表示される航跡を含む一定範囲内の緯度、経度線を、「表示する地図の地図情報に基づいて」計算して」ということにほかならない。

〈2〉 本件特許の出願公告に対する特許異議申立てにおいて、甲第25及び第27号証が証拠として提出された。そして、「表示されている航跡を含む一定範囲内の緯度、経度線」を表示するという技術事項は、甲第27号証の1の第1図、同号証の2の第2図、同号証の5の第1図、甲第25号証の2の第3図等により、本件特許の出願前公知の技術事項である。また、甲第27号証の1によれば、「緯度、経度線を計算して表示する」技術事項が本件特許の出願前公知であり、また、甲第25号証の2によれば、「航跡データを記憶し、この航跡データにもとづいて緯度、経度線を計算して表示する」技術事項が、本件出願前に公知である。

これに対して、本訴において、被告は、当初図面の第1図のように航跡と緯度、経度線とを表示することからすれば、蓄積記憶回路に記憶している航跡データに基づいて地図上の緯度、経度線を生成することは、自明のことである旨主張している。したがって、この被告の主張を甲第25及び第27号証とにより本件出願前に知られている技術事項に対して当てはめてみると、甲第25及び第27号証とにより本件出願前に知られている技術事項においても、当業者には、蓄積記憶回路に記憶している航跡データに基づいて地図上の緯度、経度線を生成することが自明のものであると解しなければならない。ところが、被告は、上記特許異議申立てに対する答弁書において、甲第25及び第27号証には、蓄積記憶回路に記憶している航跡データに基づいて地図上の緯度、経度線を生成することが記載されていない旨主張して本件特許を取得したものである。

したがって、被告が、本訴において、当初図面の第1図のように航跡と緯度、経度線とを表示することからすれば、蓄積記憶回路に記憶している航跡データに基づいて地図上の緯度、経度線を生成することは自明のことである旨主張することは、上記答弁書における主張に対して禁反言を犯しているから、本訴において、そうした被告の主張は当然しりぞけられるべきである。

〈3〉 平成2年審判第11604号事件(甲第23号証)における審判答弁書(甲第26号証の3)において、被告は、甲第25号証の2には、「基づいて・・・マーカ要素を生成する手段」についての何の開示もないとの主張に続き、「本件特許発明のように「基づいて・・・マーカ要素を生成する手段」がない以上、毎回必ずそのようにうまく表示されるとは限らない」と主張した。そして、甲第23号証の審決も、被告の上記主張を取り入れて、甲第25号証の1ないし9からは、「蓄積記憶回路に記憶している航跡データに基づいて・・・地図上の緯度、経度線・・・マーカ要素を生成する手段」の記載が無いことを理由として、「無効理由が成り立たない」との審決をした。すなわち、甲第23号証の審判事件における被告の答弁においても、審決の理由付けにおいても、本件発明の特徴とする技術事項は、「蓄積記憶回路に記憶している航跡データに基づいて・・・地図上の緯度、経度線・・・マーカ要素を生成する」ことであり、その技術事項は、単に、航跡と緯度、経度線とを表示するものが本件特許の出願前に公知であったとしても、当業者に自明の技術事項ではないと主張していた。してみれば、本訴において、単に航跡と緯度線、経度線とを表示する当初図面の第1図のものについて、「蓄積記憶回路に記憶している航跡データに基づいて・・・地図上の緯度、経度線・・・マーカ要素を生成する」ことが自明のことであると主張することは、上記審判事件における被告の主張及び審決の理由に対して、禁反言を犯しているから、本訴においては、こうした被告の主張は当然しりぞけられるべきである。

(4)  取消事由4(「表示用記憶回路」についての要旨変更)審決は、当初明細書の記載を勘案すると、「電子計算機19は、時間設定スイッチ20、縮小、拡大スイッチ21、画面移動スイッチ22等の操作スイッチにより設定が行われた場合、既に設定されている出力を変更設定し、その変更設定された設定出力に応じて表示用記憶回路14に航跡記憶の書込みを行うが、上記操作スイッチの操作により設定の変更が行われない場合には、既に設定されている出力に応じて表示用記憶回路14に航跡記憶の書込みを行うものと解される。」と認定し、「そうすると、上記の第4図(A)、(B)を追加し、訂正明細書第20頁第16行~第21頁第2行において、「ステップn4で、上記n1で入力された操作スイッチの入力データに基づいて(操作スイッチの入力がない場合は予め定めたデータに基づいて)絶対航行位置データとマーカ表示要素データを書き込む表示用記憶回路のアドレスを求め、その位置に記憶する。」と記載した補正が要旨変更とは認められないと判断するが、誤りである。

〈1〉 表示用記憶回路はRAMで構成されるため、その電源が切られると、操作スイッチの入力に基づくCPU23制御のもとにこの表示記憶回路内に記憶されていた表示データは消滅してしまう。そして、装置の電源を入れた直後は、「操作スイッチの入力データが無い」ので、この「表示用記憶回路」は、どのような記憶操作をすべきかが定まらず、「操作スイッチにより入力データが与えられる」までの間にせっかく得られた航行位置データを記憶できずに見逃してしまうという不都合が生ずることになる。そして、この不都合は、装置の使用者が操作スイッチを操作して入力データを入力することをうっかりして忘れていれば、永遠に続くことになり、目的とする航跡はいつまで待っても決して表示することができないということになる。したがって、装置の電源を入れたときに、操作スイッチによる入力データに代えて、「予め定めたデータ」が何らかの方法で入力されなければならないわけである。「操作スイッチの入力がない場合は予め定めたデータに基づいて」との記載は、この不都合を解消するために、ROMという不揮発性の記憶装置に記憶させておき、装置の電源が入れられた時に、ここから読み出すようにすることを意味する。

しかしながら、当初明細書には、ROMにそうした記憶を行わせるという記載は全くない。

〈2〉 したがって、「操作スイッチの入力がない場合は予め定めたデータに基づいて」との記載の追加は、当初明細書及び図面に記載された発明の要旨を変更するものである。

(5)  取消事由5(「操作スイッチ入力部」についての要旨変更)

審決は、当初明細書及び図面には「「縮小、拡大をブラウン管表示器の画面中心点を基準にして行わせる装置と、縮小、拡大を航跡記憶の現在位置を基準にして行わせる装置との2種類を作ることができる」ことについての記載はどこにも見当たらない」、「ブラウン管表示器において表示画面の切り換えをスイッチで行うようにすることは、本件出願前周知のことである」と認定し、訂正明細書17頁1行ないし5行において、「縮小、拡大はブラウン管表示器27の画面中心点を基準として行われるが、図示しないスイッチにより航跡2の現在位置2’を基準にして行わせることもできる。」と記載した補正が要旨変更とは認められないと判断するが、誤りである。

〈1〉 当初明細書(甲第2号証)の「縮小、拡大スイッチ21の設定出力は・・・電子計算機19へ導かれて、電子計算機19は設定された縮尺率に応じて蓄積用記憶回路16の記憶内容を表示用記憶回路14へ書込む。このとき、縮小、拡大はブラウン管表示器1の画面中心点を基準にして行なわれるが、航跡記憶2の現在位置2’を基準にして行なわせることもできる」(7頁11行ないし18行)との記載は、蓄積記憶回路16の記憶内容を表示用記憶回路に書き込むときに、「縮小、拡大はブラウン管表示器1の画面中心点を基準に行わせる構成」と、縮小、拡大は航跡記憶12の現在位置2’を基準に行わせる構成」の別個の2つの航跡記憶装置があることを意味している。そうすると、本件発明における当該部分のスイッチによる切換えも、「蓄積記憶回路25から読み出した航跡データを表示用記憶回路の記憶素子に自船の現在位置を書き込むときの書き込みの仕方を切り換える」ものであって、本件出願前周知のことではない。

これに対し、訂正明細書(甲第3号証)の「縮小、拡大はブラウン管表示器27の画面中心点を基準にして行われるが、図示しないスイッチにより航跡2の現在位置2’を基準にして行わせることもできる。」(17頁1行ないし5行)との記載は、2つの表示を1つの装置で行うことを意味してる。

したがって、「縮小、拡大はブラウン管表示器27の画面中心点を基準にして行われるが、図示しないスイッチにより航跡2の現在位置2’を基準にして行わせることもできる。」との補正は、当初明細書及び図面に記載された発明の要旨を変更するものである。

〈2〉 被告は、甲第17号証に基づく主張を行うが、甲第17号証に記載されたものは、航跡記憶装置のような表示のモードについて切換えを行うものではない。

(6)  取消事由6(特許法153条2項違反)

〈1〉 審決は、「表示用記憶回路」について特許法36条4項違反がないことの理由として、「特許法施行規則第24条によれば、「願書に添付すべき明細書は、様式第十六により作成しなければならない」と規定されており、その様式第十六の備考8には、「用語は、その有する普通の意味で使用し、かつ、明細書全体を通じて統一して使用する。ただし、特定の意味で使用しようとする場合において、その意味を定義して使用するときは、この限りでない。」ことが定められている。」(審決書7頁3行ないし11行)ことを挙げているが、この引用は、被請求人側(被告)の主張を有利に論拠づけるための「理由」であるから、この点について原告に意見を述べる機会を与えていない審判手続には、特許法153条2項に違反する違法がある。

〈2〉 審決は、「マーカ表示要素データ生成手段」について特許法36条4項違反がないことの理由として、特許明細書3頁11行、12行、6頁17行ないし20行及び7頁14行ないし17行の記載と、「地図上の緯度、経度線の」と「自船の現在位置の変化に追従しないマーカ表示要素のデータを生成する」との間に句読点が付されている」(審決書11頁10行ないし13行)ことを挙げているが、この引用は、被請求人側(被告)の主張を有利に論拠づけるための「理由」であるから、この点について原告に意見を述べる機会を与えていない審判手続には、特許法153条2項に違反する違法がある。

〈3〉 審決は、「マーカ表示要素データ生成手段」に関する補正について要旨変更がないことの理由として、当初明細書(甲第2号証)5頁17行ないし6頁6行及び6頁9行ないし13行の記載を挙げているが、この点について原告に意見を述べる機会を与えていない審判手続には、特許法153条2項に違反する違法がある。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認め、同5は争う。審決の認定、判断は正当であり、原告主張の手続違反もないから、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

〈1〉 特許明細書(甲第3号証)に「表示用記憶回路26は、ブラウン管表示器27上に表示される画素数と同数の記憶容量を有し、ブラウン管表示器27の走査位置に対応する記憶素子の記憶内容が水平走査カウンタ30、垂直走査カウンタ31の計数値によって読み出される。読み出された記憶出力はシフトレジスタ28へ送出される。シフトレジスタ28はクロックパルス源32のクロックパルス列によって、順次読み出される記憶信号を時系列化してブラウン管表示器27の輝度端子へ送出する。」(14頁2行ないし11行)とあるように、表示用記憶回路の各記憶素子の内容が、その記憶素子に対応する表示画素に表示されることを明示しているものであり、また、かかる構成は、周知である(乙第4ないし第7号証)。

「幾何的」の文言は、位置的、空間的な座標を扱うものとして広く使われており、しかも、そのことは、一般に高校、大学で幾何学を習得している通常の技術者にとって容易に理解できることである。

特許明細書(甲第3号証)に「表示用記憶回路26の記憶内容がブラウン管表示器27の表示位置で幾何的に対応するため、言い換えれば表示用記憶回路26はブラウン管表示器27に表示される画素数と同数の記憶素子からなる容量を有するため」(12頁13行ないし17行)と記載されている。

これらを総合すると、本件発明の特許請求の範囲の「表示器の表示画面上の各表示位置に幾何的に対応する記憶部を有し・・・表示用記憶回路」については、発明の詳細な説明中に当業者が容易に実施できる程度に説明が記載されていることは明らかである。

〈2〉 原告は、参考図3(別紙2参照)を提出して、〔B〕の記憶態様も考えられ、これだと〔C〕のような表示となって正しく表示されないことになる等と主張するが、そもそも参考図3の〔B〕のような記憶内容がバラバラの記憶態様を採用することはほとんどあり得ないことであり、このような〔B〕の記憶態様から〔A〕のように正しく表示される実施態様まで発明の詳細な説明中に記載する必要はない。参考図3の〔A〕の記憶態様友び表示態様についての実施例がベストモードとして明細書中に十分に記載されていれば、これを見ることにより当業者は容易に実施することができる。

(2)  取消事由2について

〈1〉 特許明細書(甲第3号証)中には、「表示用記憶回路26に航跡記録の書込みが行われると、CPU23はそれによってブラウン管表示器27に表示される航跡を含む一定範囲内の緯度、経度線を求め、それに対応する表示用記憶回路26の記憶素子に、当該緯度、経度線を書き込む。蓄積記憶回路25に記憶されている航跡データだけに基づいて緯度、経度線を生成することができるのは、上記蓄積記憶回路に記憶される各航跡位置データがそれぞれ絶対航行位置データだからである。例えば、東経135°、北緯30°の航行位置データが記憶されていれば、その位置を通る東経135°の経度線を直ちに生成することができる。」(17頁16行ないし18頁8行)との記載があり、また、第1図(甲第4号証)には航跡の周囲に所定の間隔を持った緯度、経度線3、4が描かれているが、ここには、「航跡を含む一定範囲内の緯度、経度線を求め」て書き込むと記載されているのだから、その緯度線、経度線を生成するのに、経度線間隔情報や緯度線間隔情報がなければならないことは、当然に理解できる自明のことである。例えば、東経135°の航行位置データが記憶されている場合に、その東経135°の経度線を引いてから、10°毎の経度線を引こうとするときには、その10°との経度線間隔情報が必要であることは自明である。

そして、その値の設定をプログラムで行ったり、操作者が行えるようにしたりすることも、本件発明の航跡記録装置が電子機器であることから、当業者にとって単なる設計的事項の範囲内のことにすぎない。

したがって、特許明細書には、「マーカ表示要素データ生成手段」について当業者が容易に実施できる程度に記載されている。

〈2〉 原告は、経度線間隔情報等も本件発明にいう地図情報である旨主張するが、本件発明で不要としている地図情報は、航法装置から得られた航跡データとは全く無関係に外部より与えられるマイクロフィルム等の、航行位置を認識するために対比されるマーカ手段をいい、経度…線間隔情報等は、航行位置を認識するためのマーカではなく、航行位置を認識しやすくするための補助情報であるから、地図情報には含まれず、この点の原告の主張は理由がない。

また、本件発明の要旨にいう「地図上の緯度、経度線・・・」の「地図」は、緯度、経度線が単なる緯線、経線ではなく、航行位置を認識するために使用される緯度、経度線であることを明確にするために補正したものであり(甲第13号証)、本件発明の効果である「地図情報を不要にする」の「地図」とは意味合いが異なっているものである。

(3)  取消事由3について

当初明細書(甲第2号証)には、「蓄積用記憶回路16は、航法装置17が測定した航行位置に基ずいて、一定時間内の航行位置の位置変化を記憶する。航法装置17は、例えば、ロラン受信機、オメガ受信機、NNSS受信機等が用いられ、航行位置の測定結果はインターフェイス18を経て電子計算機19へ導かれる。電子計算機19は航行位置の測定結果に基ずいて、航行位置の緯度、経度を計算した後蓄積記憶回路16に記憶させる。蓄積記憶回路16は一定時間内における航行位置の位置変化を順次更新しながら記憶する。」(5頁17行ないし6頁6行)、「記憶回路16の記憶内容は、電子計算機19によって一定時間毎に読み出されて表示用記憶回路14に書込まれるが、この書込み動作は、時間設定スイッチ20、縮小、拡大スイッチ21、画面移動スイッチ22に基ずいて行われる。」(6頁9行ないし13行)、「電子計算機19は、上記のようにして、時間設定スイッチ21、縮小、拡大スイッチ21、画面移動スイッチ22の設定出力に応じて、表示用記憶回路14に航跡記憶の書込みを行なう。そして、電子計算機19は、このとき、表示される航跡を含む一定範囲内の緯度、経度線を計算して、緯度、経度線に対応する表示用記憶回路14の記憶素子に書込みを行なう。」(8頁14行ないし9頁1行)と記載されており、この記載によれば、航跡データは、蓄積記憶回路に記憶された後、表示用記憶回路に記憶され、そのときに表示される航跡を含む一定範囲の緯度、経度線が計算されて該表示用記憶回路に記憶されるようになっている。

上記のように表示用記憶回路に記憶される緯度、経度線は、表示される航跡を含む一定範囲のものであるから、表示される航跡がどこの位置のものかによって、当該緯度、経度線の緯度、経度値は変化する。

このように、表示される航跡が決まってから、その航跡を含む緯度、経度線が計算されることは、緯度、経度線が航跡データに基づいて生成されることにほかならない。そして、そうだからこそ、船舶がどこの海上に位置していようと、その海上の地図情報を外部から与えなくても、その船舶の航行位置を、生成された緯度、経度線により認識することができるのである。

したがって、「緯度、経度線は、蓄積記憶回路に記憶されている航跡データに基づいて生成されるものであることが当初明細書に記載されていると言うことができる」とした審決の判断に違法はない。

(4)  取消事由4について

仮に「操作スイッチの入力がない場合は予め定めたデータに基づいて」の記載が当初明細書にないとしても、そのこと自体は自明事項である。

(5)  取消事由5について

原告指摘の当初明細書の記載は、2つの装置を意味するものではない。

また、スイッチによって表示状態を変えることは、例えば、甲第17号証の「3-1-3 表示モードとそのデータ構成」の欄に3つの表示モードが示され、また、23頁左欄〈5〉の欄には、モード切換えがマニュアル操作でできると記載されているように、周知技術であるから、当該補正は自明の範囲内のものである。

(6)  取消事由6について

〈1〉 審決の特許法施行規則24条等の引用は、原告が主張した「幾何的」の文言が不明瞭であるため「表示用記憶回路」を当業者が容易に実施できないという審判請求理由の範囲内で、この審判請求理由についての審理・判断の過程を説示するために、特許法36条4項の規定から当然導かれる事項を示したにすぎず、「当事者又は参加人の申し立てない理由」でないことは明らかである。

〈2〉 審決の句読点等の認定は、原告の審判請求理由の範囲で、審決の判断の過程を説示したものであり、「当事者又は参加人の申し立てない理由」でないことは明らかである。

〈3〉 審決の当初明細書5頁17行ないし6頁6行等の引用は、原告主張の審判請求理由の範囲内で、その判断に至る過程を説示したものであり、「当事者又は参加人の申し立てない理由」でないことは明らかである。

第4  証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件発明の要旨(本件特許請求の範囲の記載))及び同3(審決の理由)については、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1について

〈1〉  特許明細書(甲第3号証)に「表示用記憶回路26の記憶内容がブラウン管表示器27の表示位置で幾何的に対応するため、言い換えれば表示用記憶回路26はブラウン管表示器27上に表示される画素数と同数の記憶素子からなる容量を有するため」(12頁13行ないし17行)、及び、「表示用記憶回路26は、ブラウン管表示器27上に表示される画素数と同数の記憶容量を有し、ブラウン管表示器27の走査位置に対応する記憶素子の記憶内容が水平操作カウンタ30、垂直操作カウンタ31の計数値によって読み出される。読み出された記憶出力はシフトレジスタ28へ送出される。シフトレジスタ28はクロックパルス源32のクロックパルス列によって、順次読み出される記憶信号を時系列化してブラウン管表示器27の輝度端子へ送出する。」(14頁2行ないし11行)と記載されていることは、当事者間に争いがない。

〈2〉  ところで、甲第17号証によれば、雑誌「インターフェース」1976年8月号には、「メイン・メモリに書き込まれた画像データは、TVの走査に同期して順々に読み出され、画面に表示される。ディスプレイ画面の原点は左上の隅であり、TVの走査は水平に左から右方向に進み、この走査を繰り返しながら下方に移っていく。従って、メイン・メモリ内の画像データを、画面左上隅のデータがメイン・メモリの0番地に、右下隅のデータが213-1番地に対応するように配列させる。これらの関係を図5に示す。」(25頁左欄25行ないし33行)と記載されていることが認められ、この記載と図5(同頁右欄)によれば、ディスプレイ画面上の各表示位置に対応するメインメモリの番地(アドレス)に画像データを配列することが示されていると認められる。また、乙第4号証によれば、特開昭52-126号公報には、「第1図は、・・・多層構成メモリの構成を示したもので・・・各々の層は画像表示装置の表示部の絵素数(縦はn絵素、横はm絵素とする)に対応して縦はnビット、横はmビットの二次元配列をなし、・・・表示すべき画像の各画素の情報は、同じx、yアドレスを有するz方向のNビットデータにより表現されている。」(2頁左上欄15行ないし右上欄5行)と記載されていることが認められ、この記載と第1図によれば、表示部の各絵素に対応するメモリのアドレスに画像データを格納することが示されていることが認められる。これらによれば、「表示器の表示画面上の表示位置に対応する記憶部」を有する表示器は周知であると認められる。

この周知事項を踏まえて、上記〈1〉の特許明細書の記載を検討すれば、「表示用記憶回路26の記憶内容がブラウン管表示器27の表示位置で幾何的に対応する」ことは、「表示用記憶回路26はブラウン管表示器27に表示される画素数と同数の記憶素子からなる容量を有する」ことを意味し、さらに、「表示用記憶回路26は、ブラウン管表示器27上に表示される画素数と同数の記憶容量を有し、ブラウン管表示器27の走査位置に対応する記憶素子の記憶内容が水平走査カウンタ30、垂直走査カウンタ31の計数値によって読み出される」ことは、表示器の走査位置に対応する記憶素子の記憶内容が水平カウンタ30、垂直カウンタ31の計数値によって順次読み出され、読み出された記憶内容が、ブラウン管表示器の対応する表示画素位置に表示されることを意味し、それらの事項が当業者に理解可能なように特許明細書に記載されていると認められる。

〈3〉  原告は、記憶配置の1つとして、例えば、参考図3(別紙2参照)示すように、〔A〕のような記憶部の記憶配置を〔B〕のような記憶配置に変更した場合が考えられるが、こうした記憶配置の場合における構成に対しても、当業者が容易に実施し得る程度の説明の記載がなければならない旨主張する。

しかしながら、弁論の全趣旨によれば、原告主張の〔B〕の記憶配置から〔A〕の表示にするためには、原告主張のように、ブラウン管表示器からの水平走査同期信号によって水平方向の表示に必要な数の記憶素子数の記憶内容が読み出された後に垂直走査同期信号が与えられる構成にすればよく、このことは当業者に自明のことであると認められる。なお、本件発明の当初図面の第1図の「垂直走査カウンタ12から水平、垂直走査回路10に向けて入力することを示す矢印」の回路構成では参考図3の〔A〕のように表示できないとしても、上記当初図面の第1図は飽くまで一実施例にすぎないものである。したがって、この点の原告の主張は採用できない。

さらに、原告は、「幾何的」は、「立体幾何の空間座標」で対応するものも含むこととなるが、特許明細書には、そのような対応関係の記憶によって本件発明の実施を可能にする技術は記載されていないから、特許法36条4項違反である旨主張する。しかしながら、特許法36条4項は、考え得るあらゆる形態のものにつき説明すべきことを要求しているものではないから、「立体幾何の空間座標」で対応するものについての説明や実施例の記載がないことをもって、特許法36条4項に違反すると解することはできない。

原告のその余の主張が採用できないことは、上記に説示のところから明らかである。

〈4〉  したがって、原告主張の取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

〈1〉  甲第3、第4号証によれば、特許明細書中には、「第1図において、・・・表示面1上には、航跡2、マーカ表示要素である緯度、経度線3、4・・・が表示され、自船の航行位置の変位に応じて表示面1上の現在位置2’も移動するようになっている。」(甲第3号証7頁8行ないし19行。一部は当事者間に争いがない。)、「表示用記憶回路26に航跡記録の書込みが行われると、CPU23はそれによってブラウン管表示器27に表示される航跡を含む一定範囲内の緯度、経度線を求め、それに対する表示用記憶回路26の記憶素子に、当該緯度、経度線を書き込む。蓄積記憶回路25に記憶されている航跡データだけに基づいて緯度、経度線を生成することができるのは、上記蓄積記憶回路に記憶される各航法位置データがそれぞれ絶対航行位置データだからである。例えば、東経135°、北緯30°の航行位置データが記憶されていれば、その位置を通る東経135°の経度線を直ちに生成することができる。」(同17頁16行ないし18頁8行)と記載され、また、第1図(甲第4号証)には航跡の周囲に所定の間隔を持った緯度、経度線3、4が描かれていることが認められる。ところで、上記表示面は自船の航跡及び現在位置、所定の間隔を持った緯度、経度線をブラウン管等の表示器の表示面に表示するものであるから、この航跡等は、表示器上に表示する都合上、縮尺率の情報を必要とすることは当業者にとって自明であり、また、緯度、経度線等のマーカ表示要素を生成するためには、緯度線間隔情報等を必要とすることも自明であると認められる。しかも、それらの情報を供給するための手段も、当業者にとって自明であると認められる。したがって、「マーカ表示要素データ生成手段」の点について特許法36条4項違反がある旨の原告の主張は理由がない。

〈2〉  原告は、本件発明の要旨(特許請求の範囲)中の「地図上の緯度、経度線」は地図表示により表示される地図の上に画かれた緯度、経度線を指す旨主張するが、地図情報を利用しなくても緯度、経度線を生成できることは、上記のとおりであるから、この点の原告の主張は採用できない。

〈3〉  したがって、原告主張の取消事由2は理由がない。

(3)  取消事由3について

〈1〉  当初明細書(甲第2号証)に、「蓄積記憶回路16は、航法装置17が測定した航行位置に基ずいて、一定時間内の航行位置の位置変化を記憶する。航法装置17は、例えば、ロラン受信機、オメガ受信機、NNSS受信機等が用いられ、航行位置の測定結果はインターフェイス18を経て電子計算機19へ導かれる。電子計算機19は航行位置の測定結果に基ずいて、航行位置の緯度、経度を計算した後蓄積記憶回路16に記憶させる。蓄積記憶回路16は一定時間内における航行位置の位置変化を順次更新しながら記憶する。」(5頁17行ないし6頁6行)、「記憶回路16の記憶内容は、電子計算機19によって一定時間毎に読み出されて表示用記憶回路14に書き込まれるが、この書込み動作は、時間設定スイッチ20、縮小、拡大スイッチ21、画面移動スイッチ22に基ずいて行われる。」(6頁9行ないし13行)、「電子計算機19は、上記のようにして、時間設定スイッチ20、縮小、拡大スイッチ21、画面移動スイッチ22の設定出力に応じて、表示用記憶回路14に航跡記憶の書込みを行なう。そして、電子計算機19は、このとき、表示される航跡を含む一定範囲内の緯度、経度線を計算して、緯度、経度線に対応する表示用記憶回路14の記憶素子に書込みを行なう。」(8頁14行ないし9頁1行)と記載されていることは、当事者間に争いがない。

さらに、甲第2号証によれば、当初明細書には、「電子計算機19はカーソル記憶信号をシフトさせると同時に、カーソル線5、6がそれぞれ位置する緯度、経度をも計算する。そして、計算した緯度、経度をブラウン管表示器1上に数値8、9で表示する。」(9頁15行ないし19行)、「カーソル移動スイッチ23を作動させて、カーソル線5、6を移動すると、緯度、経度の表示数値8、9もカーソル線8、9が位置する緯度、経度に対応して変化し、かつ、数値の表示位置もカーソル線5、6の移動に伴なって移動する。」(10頁6行ないし11行)と記載されていることが認められ、また、第1図によれば、電子計算機19は、蓄積用記憶回路に記憶されているデータ(航跡データ)に基づいて画面表示データを生成することが示されていることが認められる。

これらの記載によれば、当初明細書には、電子計算機19が表示される航跡を含む一定範囲の緯度、経度を計算し、また、カーソル線が移動すると、カーソル線8、9が位置する緯度、経度を数値で表示することが示されていると認められるから、審決の「緯度、経度線は、蓄積記憶回路に記憶されている航跡データに基づいて生成されるものであることが当初明細書に記載されていると言うことができるし、その生成の仕方も、当初明細書に明記されていると言うことができる」との判断に誤りはないと認められる。

そうすると、訂正明細書における「蓄積記憶回路に記憶されている航跡データだけに基づいて緯度、経度線を生成できるのは、上記蓄積回路に記憶される各航行位置データがそれぞれ絶対航行位置データだからである。例えば、東経135°、北緯30°の航行位置データが記憶されていれば、その位置を通る東経135°の経度線を直ちに生成することができる。」との補正は、要旨変更となる補正に当たるものとは認められないとした審決の判断に誤りはないと認められる。

〈2〉(a)  原告は、当初明細書中の「電子計算機19は、このとき、表示される航跡を含む一定範囲内の緯度、経度線を、計算して」の意味は、「表示する地図の地図情報に基づいて計算して」ということにほかならない旨主張する。

しかしながら、航跡データに基づいて緯度、経度線を生成できること及び表示に際して経度線間隔情報等の補助的情報を必要とすることが自明であることは、前記(2)に説示のとおりであるから、この点の原告の主張は採用できない。

(b)  原告は、被告が一方において甲第25及び第27号証には蓄積記憶回路に記憶している航跡データに基づいて地図上の緯度、経度線を生成することが記載されていないと主張して本件特許を取得しながら、他方で甲第25及び第27号証と同様な当初図面の第1図につき蓄積記憶回路に記憶している航跡データに基づいて地図上の緯度、経度線を生成することは自明である旨主張することは、禁反言により許されない旨主張する。

しかしながら、原告のこの点の主張は、本件発明の当初明細書及び図面の記載事項を前提にする主張と、これとは別個の特許異議申立て手続において提出された書証の記載事項を前提とする主張を混同するものであって、採用することはできない。

(c)  さらに、原告は、被告が一方で別件の甲第23号証の審判事件において、本件発明の「蓄積記憶回路に記憶している航跡データに基づいて・・・地図上の緯度、経度線・・・マーカ要素を生成する」との技術事項は、単に航跡と緯度、経度線とを表示するものが本件特許の出願前に公知であったとしても当業者に自明の技術事項ではないと主張し、それが審決の理由でも採用されながら、他方で、単に航跡と緯度線、経度線とを表示する当初図面の第1図につき「蓄積記憶回路に記憶している航跡データに基づいて・・・地図上の緯度、経度線・・・マーカ要素を生成する」ことが自明のことであると本訴で主張することは、禁反言により許されない旨主張する。

しかしながら、原告のこの点の主張も、本件発明の当初明細書及び図面の記載事項を前提にする主張と、別件審判事件で提出された書証の記載事項を前提とする主張を混同するものであって、採用することはできない。

〈3〉  したがって、原告主張の取消事由3は理由がない。

(4)  取消事由4について

〈1〉  審決の理由のうち、審決書17頁19行から19頁19行「の記載」まで(当初明細書の記載事項)は、当事者間に争いがない。

上記の当初明細書の記載によれば、「電子計算機19は、時間設定スイッチ20、縮小、拡大スイッチ21、画面移動スイッチ22等の操作スイッチにより設定が行われた場合、既に設定されている出力を変更設定し、その変更設定された設定出力に応じて表示用記憶回路14に航跡記憶の書込みを行うが、上記スイッチの操作により設定の変更が行われない場合には、既に設定されている出力に応じて表示用記憶回路14に航跡記憶の書込みを行うものと解され」、このことは当業者に自明のことと認められる。したがって、「訂正明細書第20頁16行~第21頁第2行の「ステップn4にて、上記n1で入力された操作スイッチの入力データに基づいて(操作スイッチの入力がない場合は予め定めたデータに基づいて)絶対航行位置データとマーカ表示要素データを書き込む表示用記憶回路のアドレスを求め、その位置に記憶する。」の記載は、上記のことを記載したに過ぎないものであって、その()内の記載は、操作スイッチの操作により設定の変更が行われない場合に、既に設定されている出力に応じて書き込みが行われることを記載したものと解することができる。」(審決書20頁9行ないし19行)と認定し、「そうすると、上記の第4図(A)、(B)を追加し、訂正明細書第20頁第16行~第21頁第2行において、「ステップn4で、上記n1で入力された操作スイッチの入力データに基づいて(操作スイッチの入力がない場合は予め定めたデータに基づいて)絶対航行位置データとマーカ表示要素データを書き込む表示用記憶回路のアドレスを求め、その位置に記憶する。」と記載した補正が、「表示用記憶回路」の構成に対して、当初明細書及び図面に記載された内容を逸脱した要旨変更となる補正に当たるとは認められない。」(同20頁末行ないし21頁10行)との判断にも誤りはないと認められる。

これに反する原告の主張は採用できない。

〈2〉  したがって、原告主張の取消事由4は理由がない。

(5)  取消事由5について

〈1〉  当初明細書に、「縮小、拡大スイッチ21の設定出力は・・・電子計算機19へ導かれて、電子計算機19は設定された縮尺率に応じて蓄積記憶回路16の記憶内容を表示用記憶回路14へ書き込む。このとき、縮小、拡大はブラウン管表示器1の画面中心点を基準にして行なわれるが、航跡記憶2の現在位置2’を基準にして行なわせることもできる。」(7頁11行ないし18行)と記載されていることは、当事者間に争いがない。上記記載は、当初明細書(甲第2号証4頁1行)に「第1図において」とあることから認められるように、当初明細書の第1図について記載していると認められるところ、上記第1図には、1つの航跡記憶装置が示されているものであるから、上記当初明細書中の記載は、1つの航跡記憶装置において、縮小、拡大はブラウン管表示器1の画面中心点を基準にして行われるが、航跡記憶2の現在位置2’を基準にして行わせることもできることを意味しているものと認められる。そして、上記のように、当初明細書には1つの航跡記憶装置が記載されていると解される以上、ブラウン管表示器において表示画面の切換えをスイッチで行うようにすることは、当業者にとって自明のことと認められる。

そうすると、審決の「縮小、拡大はブラウン管表示器27の画面中心点を基準にして行われるが、図示しないスイッチにより航跡2の現在位置2’を基準にして行わせることもできる。」と記載した補正が要旨変更となる補正に当たるとは認められないとの判断に誤りはないと認められる。

これに反する原告の主張は、上記に説示のところに照らし、採用できない。

〈2〉  したがって、原告主張の取消事由5は理由がない。

(6)  取消事由6について

〈1〉  原告は、審決は「表示用記憶回路」について特許法36条4項違反がないことの判断の中で、特許法施行規則第24条等を挙げているが、この点について原告に意見を述べる機会を与えていない審判手続は特許法153条2項に違反する旨主張する。

しかしながら、「特許請求の範囲における「表示器の表示画面上の各表示位置に幾何的に対応する記憶部を有し、前記マーカ表示要素データ生成手段で生成されたデータと前記蓄積記憶回路に記憶されている航跡データとを前記表示器の表示画面上の表示位置となる記憶部に記憶する表示用記憶回路」の記載について、」、「発明の目的とする構成を当業者が容易に実施し得ないものである」(審決書5頁16行ないし6頁2行、6頁末行ないし7頁2行)との申立てが特許法153条2項にいう「理由」に当たるものであり、上記「理由」の判断に当たって理由付けとして述べられた特許法施行規則24条等の点は上記「理由」には当たらないものであるから、特許法施行規則24条等の点が特許法153条2項にいう「理由」に当たることを前提とする原告主張の取消事由6〈1〉は、理由がない。

〈2〉  原告は、審決は「マーカ表示要素データ生成手段」について特許法36条4項違反がないことの判断の中で、特許明細書3頁11行、12行、6頁17行ないし20行及び7頁14行ないし17行の記載と、「地図上の緯度、経度線の」と「自船の現在位置の変化に追従しないマーカ表示要素のデータを生成する」との間に句読点が付されていることを挙げているが、この点について原告に意見を述べる機会を与えていない審判手続は特許法153条2項に違反する旨主張する。

しかしながら、「「地図上の緯度、経度線の自船の現在位置の変化に追従しないマーカ表示要素のデータを生成する手段」については、何ら説明がないものであるから、発明の目的とする構成を当業者が容易に実施し得ないものである」(審決書10頁11行ないし15行)との申立てが特許法153条2項にいう「理由」に当たるものであり、上記「理由」の判断に当たって理由付けとして述べられた上記特許明細書の記載及び句読点の存在の点は上記「理由」には当たらないものであるから、上記特許明細書の記載及び句読点の存在の点が特許法153条2項にいう「理由」に当たることを前提とする原告主張の取消事由6〈2〉は、理由がない。

〈3〉  原告は、審決は「マーカ表示要素データ生成手段」に関する補正について要旨変更がないとの判断の中で、当初明細書(甲第2号証)5頁17行ないし6頁6行及び6頁9行ないし13行の記載を挙げているが、この点について原告に意見を述べる機会を与えていない審判手続は特許法153条2項に違反する旨主張する。

しかしながら、「蓄積記憶回路に記憶されている航跡データだけに基づいて緯度、経度線を生成できるのは、上記蓄積回路に記憶されている各航跡データがそれぞれ絶対航行位置データだからである。例えば、東経135°、北緯30°の航行位置データが記憶されていれば、その位置を通る東経135°の経度線を直ちに生成することができる。」との補正(訂正明細書18頁1行ないし8行)が要旨変更となる補正であるとの申立て(審決書13頁7行ないし14頁5行)が特許法153条2項にいう「理由」に当たるものであり、上記「理由」の判断に当たって理由付けとして述べられた上記当初明細書中の記載は上記「理由」には当たらないものであるから、当初明細書中の記載が特許法153条2項にいう「理由」に当たることを前提とする原告主張の取消事由6〈3〉は、理由がない。

(7)  結論

以上によれば、審決には、原告主張の特許法36条4項違反の点はないとの審決の判断に誤りはなく(取消事由1、2)、出願公告の決定謄本送達前の補正は明細書の要旨を変更するものには当たらないとした審決の判断にも誤りはなく(取消事由3ないし5)、したがって、本件発明の出願日について特許法40条の規定の適用はなく、原告が提出した甲第14ないし第16号証は、いずれも本件発明の出願日後に公知となった刊行物となるから、本件発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとすることができないとした審決の判断に誤りはなく、特許法153条2項に違反する手続違反も認められない(取消事由6)。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

平成1年審判第17503号

審決

東京都品川区上大崎2丁目10番45号

請求人 株式会社光電製作所

西宮市芦原町9番52号

被請求人 古野電気 株式会社

大阪府大阪市中央区谷町2丁目3番8号 ビジョンビル6F 小森特許事務所

代理人弁理士 小森久夫

上記当事者間の特許第1516845号発明「航跡記録装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

審判費用は、請求人の負担とする.

理由

本件特許第1516845号発明(以下、本件発明という。)は、昭和54年4月27日に出願され、昭和61年9月24日に出願公告(特公昭61-42802号公報参照)された後、平成1年9月7日にその特許の設定の登録がなされたものであって、本件発明の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次の通りのものと認める。

「航行位置を測定する航法装置の測定結果に基づいて絶対航行位置を航跡データとして蓄積記憶する蓄積記憶回路と、該蓄積記憶回路に記憶している航跡データに基づいて、航行位置を認識するための、地図上の緯度、経度線等の、自船の現在位置の変化に追従しないマーカ表示要素のデータを生成するマーカ表示要素データ生成手段と、表示器と、前記表示器の表示画面上の各表示位置に幾何的に対応する記憶部を有し、前記マーカ表示要素データ生成手段で生成されたデータと前記蓄積記憶回路に記憶されている航跡データとを前記表示器の表示画面上の表示位置となる記憶部に記憶する表示用記憶回路と、画面移動スイッチおよび画面の縮小、拡大スイッチを含み、前記表示用記憶回路に記憶されているデータを任意の方向へ移動させる等表示用記憶回路の記憶状態を変えることによって前記表示器での表示状態を所望の状態に設定することを指示する操作スイッチ入力部と、を備えてなる航跡記録装置。」

これに対して、本件請求人は、「特許第1516845号の特許は無効とする。」との審決を求め、その理由の要点として次の通り主張している。

「(ⅰ)本件特許発明の要旨における「表示用記憶回路」と「マーカ表示要素データ生成手段」とは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、当業者という)が容易にその実施をすることができる程度に、その構成を記載していないので、特許法(本件特許発明に対して適用される特許法をいう、以下において同じ)第36条第4項に規定する要件を満たしていないものであるので、同法第123条第1項第3号に該当するため無効とすべきである。

(ⅱ)本件特許発明の要旨における「マーカ表示要素データ生成手段」、「表示用記憶回路」及び「操作スイッチ入力部」は、実質的な内容において、願書に添付した明細書及び図面に記載された内容を逸脱して要旨変更となる補正がなされているものであり、この補正は、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした昭和60年3月25日付手続補正書による補正であるから、特許法第40条の規定により、その特許出願は、その補正について手続補正を提出した時にしたものとみなされなければならないものである。

このようにみなされるとき、本件特許発明は、その出願前に頒布された刊行物甲第3号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明における所要の構成部分を単に選択的に組み合わせて、これら甲各号証と同一の目的を果たすものに過ぎないので、本件特許発明は、これら甲各号証に基づいて当業者が容易に発明なし得たものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本件特許は同法第123条第1項第1号に該当するため無効とすべきである。」

ここで、上記の理由の要点(ⅱ)の中に記載されている「刊行物甲第3号証、甲第5号証及び甲第6号証」は、それぞれ、特開昭55-14600号公報(出願公開昭和55年11月14日)、特開昭54-102891号公報(出願公開昭和54年8月13日)及び特開昭57-56705号公報(出願公開昭和57年4月5日)のことである。また、「願書に添付した明細書及び図面」は、願書に最初に添付した明細書及び図面のことと解する。

そこで、先ず、本件請求人が本件特許は無効であるとする上記理由(ⅰ)について検討する。

(1)「表示用記憶回路」について、

本件請求人は、本件発明の明細書(以下、特許明細書という)の特許請求の範囲における「表示器の表示画面上の各表示位置に幾何的に対応する記憶部を有し、前記マーカ表示要素データ生成手段で生成されたデータと前記蓄積回路に記憶されている航跡データとを前記表示器の表示画面上の表示位置となる記憶部に記憶する表示用記憶回路」の記載について、この構成において、「幾何的」という語は、「広辞苑」にも見当たらない語であり、標準的な語では無く、造語であり、その具体的な内容の説明もないから、技術内容を理解しえないものである旨主張するとともに、訂正公報第43頁第20~26行における説明では、「表示用記憶回路26の記憶内容は、ブラウン管表示器27の表示位置に幾何的に対応するようにされ、………(中略)………表示用記憶回路26の記憶内容がブラウン管表示器27の表示位置で幾何的に対応するため、言い換えれば表示用記憶回路26はブラウン管表示器27に表示される画素数と同数の記憶素子からなる容量を有するため、シフトレジスタ28への表示データの転送はブラウン管表示器27の走査信号に同期して行われる。」と記載されているのみであり、この説明は、単に、「幾何的に対応するとは、表示用記憶回路26はブラウン管表示器27に表示される画素数と同数の記憶素子からなる容量を有する」旨を述べているに過ぎないので、発明の目的とする構成を当業者が容易に実施し得ないものである旨主張している。

しかしながら、特許法施行規則第24条によれば、「願書に添付すべき明細書は、様式第十六により作成しなければならない」と規定されており、その様式第十六の備考8には、「用語は、その有する普通の意味で使用し、かつ、明細書全体を通じて統一して使用する。ただし、特定の意味で使用しようとする場合において、その意味を定義して使用するときは、この限りでない。」ことが定められている。

本件発明においては、「表示用記憶回路26の記憶内容がブラウン管表示器27の表示位置で幾何的に対応するため、言い換えれば表示用記憶回路26はブラウン管表示器27に表示される画素数と同数の記憶素子からなる容量を有するため」(特許明細書第12頁第13~17行)の記載において、「表示用記憶回路26の記憶内容がブラウン管表示器27の表示位置で幾何的に対応する」ことの意味を定義している。

そして、この記載に加えて、特許明細書には、「表示用記憶回路26は、ブラウン管表示器27上に表示される画素数と同数の記憶容量を有し、ブラウン管表示器27の操作位置に対応する記憶素子の記憶内容が水平走査カウンタ30、垂直走査カウンタ31の計数値によって読み出される。読み出された記憶出力はシフトレジスタ28へ送出される。シフトレジスタ28はクロックパルス源32のクロックパルス列によって、順次読み出される記憶信号を時系列化してブラウン管表示器27の輝度端子へ送出する。」(第14頁第2~11行)ことが記載されている。

この記載と先の定義の記載とを併せみれば、「幾何的」とは、表示用記憶回路26の各記憶素子とブラウン管表示器27の各画素とが相互に対応した位置関係にあることを表していることが明かであり、そのことは、当業者が容易に理解できるものと認められる。

したがって、「表示用記憶回路」についての本件請求人の主張は、失当である。

(2)「マーカ表示要素データ生成手段」について、

本件請求人は、特許明細書の特許請求の範囲における「蓄積記憶回路に記憶している航跡データに基づいて、航行位置を認識するための、地図上の緯度、経度線等の、自船の現在位置の変化に追従しないマーカ表示要素のデータを生成するマーカ表示要素データ生成手段」の記載について、この手段は、「地図上の緯度、経度線の自船の現在位置の変化に追従しないマーカ表示要素のデータを生成する手段」を含む構成であることは明かである旨述べるとともに、この緯度、経度線の生成については、訂正公報第45頁第17~14行(訂正公報第45頁第31~34行の誤記と認める。)において、「蓄積記憶回路に記憶されている航跡データだけに基づいて緯度、経度線を生成できるのは、上記蓄積回路に記憶される各航行位置データがそれぞれ絶対航行位置データだからである。例えば、東経135°、北緯30°の航行位置データが記憶されていれば、その位置を通る東経135°の経度線を直ちに生成することができる。」と記載されているのみであり、地図のデータを記憶していることについては、何らの記載も無く緯度、経度線と地図との関係についての記載も全く無いから、「地図上の緯度、経度線」を生成することはでき得ないし、また、上記訂正公報第45頁第31~34行の例えば以下の説明は、自船の航行位置データによって経度線を生成することを記載しているのみであって、「経度線の自船の現在位置の変化に追従しないマーカ表示要素のデータ」を生成することについては、何ら全く記載されてはいないので、結局、「地図上の緯度、経度線の自船の現在位置の変化に追従しないマーカ表示要素のデータを生成する手段」については、何ら説明がないものであるから、発明の目的とする構成を当業者が容易に実施し得ないものである旨主張している。

しかしながら、特許明細書には、「画面上で現在位置や任意の位置を知るためのマーカ(緯度、経度線等)表示」(第3頁第11~12行)の記載、「マーカ表示要素である緯度、経度線3、4、同じくマーカ表示要素であるカーソル線5、6、イベントマーク7、緯度、経度表示数値8、9が表示され」(第7頁第14~17行)の記載、及び、「航法装置の他にセンサを用いなくてもまた別の入力手段によって地図情報を与えなくても緯度、経度線等のマーカ表示要素は航跡データに基づいて生成され」(第6頁第17~20行)の記載が見当たる一方、特許明細書の特許請求の範囲の「地図上の緯度、経度線等の、自船の現在位置の変化に追従しないマーカ表示要素のデータを生成するマーカ表示要素データ生成手段」の記載には、「地図上の緯度、経度線等の」と「自船の現在位置の変化に追従しないマーカ表示要素のデータを生成する」との間に句読点が付されているから、上記の特許明細書の特許請求の範囲の「地図上の緯度、経度線等の、自船の現在位置の変化に追従しないマーカ表示要素のデータを生成するマーカ表示要素データ生成手段」は、地図上の緯度、経度線等のマーカ表示要素であって、自船の現在位置の変化に追従しないマーカ表示要素のデータを生成するマーカ表示要素データ生成手段と読むのが相当と解される。

そして、「地図上の緯度、経度線」とは、地図に使用されている緯度、経度線のことを意味するものと解される。

してみれば、本件請求人の「マーカ表示要素データ生成手段」についての主張は、失当である。

以上述べた通りであるから、本件発明の要旨における「表示用記憶回路」と「マーカ表示要素データ生成手段」とは、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その構成を記載していると言うことができ、本件特許明細書には、本件請求人の主張するような記載不備はない。

したがって、本件請求人が主張する理由(ⅰ)によっては、本件特許が特許法第123条第1項第3号に該当するものとは認められず、本件特許を無効とすることができない。

続いて、本件請求人が本件特許は無効であるとする上記理由(ⅱ)について検討する。

本件請求人は、「本件特許発明の要旨における「マーカ表示要素データ生成手段」、「表示用記憶回路」及び「操作スイッチ入力部」は、実質的な内容において、願書に添付した明細書及び図面に記載された内容を逸脱して要旨変更となる補正がなされているものである」旨の主張しているので、先ず、この点について検討する。

(1)「マーカ表示要素データ生成手段」に関する補正について、

本件請求人は、昭和60年3月25日付提出の手続補正書による補正では、同補正による明細書(以下、訂正明細書という)第18頁第1~8行に、「蓄積記憶回路に記憶されている航跡データだけに基づいて緯度、経度線を生成できるのは、上記蓄積回路に記憶される各航行位置データがそれぞれ絶対航行位置データだからである。例えば、東経135°、北緯30°の航行位置データが記憶されていれば、その位置を通る東経135°の経度線を直ちに生成することができる。」と記載されているが、この補正は、当初明細書及び当初図面には、緯度、経度線を何に基づいて如何様に生成するかは、何等記載されていなかったものを、同補正によって、緯度、経度線を蓄積記憶回路に記憶されている航跡データに基づいて生成することに変更しているものであるから、明らかに、「マーカ表示要素データ生成手段」の構成に対して、当初明細書及び当初図面に記載された内容を逸脱した要旨変更となる補正がなされているものである旨主張している。

しかしながら、この出願の願書に最初に添付した明細書(以下、当初明細書という)には、「蓄積用記憶回路16は、航法装置17が測定した航行位置に基づいて、一定時間内の航行位置の位置変化を記憶する。航法装置17は、例えば、ロラン受信機、オメガ受信機、NNSS受信機等が用いられ、航行位置の測定結果はインターフェイス18を経て電子計算機19へ導かれる。電子計算機19は航行位置の測定結果に基づいて、航行位置の緯度、経度を計算した後蓄積記憶回路16に記憶させる。蓄積記憶回路16は一定時間内における航行位置の位置変化を順次更新しながら記憶する。」(第5頁第17行~第6頁第6行)こと、「記憶回路16の記憶内容は、電子計算機19によって一定時間毎に読み出されて表示用記憶回路14に書込まれるが、この書込み動作は、時間設定スイッチ20、縮小、拡大スイッチ21、画面移動スイッチ22に基づいて行われる。」(第6頁第9~13行)こと、及び、「電子計算機19は、上記のようにして、時間設定スイッチ20、縮小、拡大スイッチ21、画面移動スイッチ22の設定出力に応じて、表示用記憶回路14に航跡記憶の書込みを行う。そして、電子計算機19は、このとき、表示される航跡を含む一定範囲内の緯度、経度線を計算して、緯度、経度線に対応する表示用記憶回路14の記憶素子に書込みを行う。」(第8頁第14行~第9頁第1行)ことが記載されており、これらの記載をみると、緯度、経度線は、蓄積記憶回路に記憶されている航跡データに基づいて生成されるものであることが当初明細書に記載されていると言うことができるし、その生成の仕方も、当初明細書に明記されていると言うことができる。

上記補正は、緯度、経度線が、蓄積記憶回路に記憶されている航跡データに基づいて生成されることを述べて、そのことを具体的な経度、緯度を挙げて例示したものであると認めることができるから、この補正が、「マーカ表示要素データ生成手段」の構成に対して、当初明細書及び図面に記載された内容を逸脱した要旨変更となる補正に当たるとは認められない。

したがって、本件請求人の上記の「マーカ表示要素データ生成手段」に関する補正についての主張は、失当である。

(2)「表示用記憶回路」に関する補正について、

本件請求人は、当初明細書では、その第5頁第14行~第6頁第13行において、「表示用記憶回路14は、ブラウン管表示器1に表示される表示信号を記憶するが、そのうち航跡記録2の記憶信号は蓄積用記憶回路16から書込まれる。………(中略)………記憶回路16の記憶内容は、電子計算機19によって一定時間毎に読み出されて表示用記憶回路14に書込まれるが、この書込み動作は、時間設定スイッチ20、緒小、拡大スイッチ21、画面移動スイッチ22に基づいて行われる。」と記載されているのに対して、訂正明細書及び図面では、第4図(A)、(B)を追加し、 訂正明細書第20頁第16行~第21頁第2行に、「ステップn4では、上記n1で入力された操作スイッチの入力データに基づいて(操作スイッチの入力がない場合は予め定めたデータに基づいて)絶対航行位置データとマーカ表示要素データを書き込む表示用記憶回路のアドレスを求め、その位置に記憶する。」と記載されているが、この補正は、当初明細書では、「表示用記憶回路14の書込み動作は、時間設定スイッチ20、縮小、拡大スイッチ21、画面移動スイッチ22に基づいて行われる」という構成のみであったものが、同補正によって、「表示用記憶回路14の書込み動作は、時間設定スイッチ20、縮小、拡大スイッチ21、画面移動スイッチ22に基づいて行われる場合と、予め定めたデータに基づいて行われる場合との2種類の動作を行う」という構成に変便しているものであるから、明らかに、当初明細書及び当初図面に記載された内容を逸脱した要旨変更となる補正がなされているものである旨主張している。

ここで、第4図(A)、(B)はCPUの動作を示すフローチャートであり、同図(A)は操作スイッチが操作されたとき実行される動作であり、同図(B)は航法装置からのデータ入力があった場合に実行される動作である(訂正明細書第20頁第3~7行)。また、ステップn1は、操作スイッチ入力データ生成ステップのことであり、ステップn4は、操作スイッチの入力データに基づいて絶対航行位置データとマーカ表示要素データを表示用記憶回路に記憶させるステップのことである(第4図(A)、(B)参照)。

しかしながら、上記第4図(A)、(B)は、その図面の記載からみて、当初明細書第5頁第14行~第9頁第1行の「表示用記憶回路14は、ブラウン管表示器1に表示される表示信号を記憶するが、そのうち航跡記録2の記憶信号は蓄積用記憶回路16から書込まれる。………(中略)………そして、電子計算機19は、このとき、表示される航跡を含む一定範囲内の緯度、経度線を計算して、緯度、経度線に対応する表示用記憶回路14の記憶素子に書込みを行う。」に記載された電子計算機の動作をフローチャートの形に示したものと認められる。

そして、当初明細書の「記憶回路16の記憶内容は、電子計算機19によって一定時間ごとに読み出されて表示用記憶回路14に書込まれるが、この書込み動作は、時間設定スイッチ20、縮小、拡大スイッチ21、画面移動スイッチ22に基づいて行われる。」(第6頁第9~13行)の記載、「縮小、拡大スイッチ21の設定出力はインターフェイス23を経て電子計算機19へ導かれて、電子計算機19は設定された縮尺率に応じて蓄積用記憶回路16の記憶内容を表示用記憶回路14へ書込む。」(第7頁第11~15行)の記載、「電子計算機19は移動信号が入力されたときは、表示用記憶回路14に書き込む記憶内容を、全体的に移動方向にシフトした記憶素子に書き込むごとく行う。」(第8頁第10~13行)の記載、及び、「電子計算機19は、上記のようにして、時間設定スイッチ20、縮小、拡大スイッチ21、画面移動スイッチ22の設定出力に応じて、表示用記憶回路14に航跡記憶の書込みを行う。」(第8頁第10~13行)の記載を勘案すると、電子計算機19は、時間設定スイッチ20、縮小、拡大スイッチ21、画面移動スイッチ22等の操作スイッチにより設定が行われた場合、既に設定されている出力を変更設定し、その変更設定された設定出力に応じて表示用記憶回路14に航跡記憶の書込みを行うが、上記操作スイッチの操作により設定の変更が行われない場合には、既に設定されている出力に応じて表示用記憶回路14に航跡記憶の書込みを行うものと解される。

訂正明細書第20頁第16行~第21頁第2行の「ステップn4で、上記n1で入力された操作スイッチの入力データに基づいて(操作スイッチの入力がない場合は予め定めたデータに基づいて)絶対航行位置データとマーカ表示要素データを書き込む表示用記憶回路のアドレスを求め、その位置に記憶する。」の記載は、上記のことを記載したに過ぎないものであって、その()内の記載は、操作スイッチの操作により設定の変更が行われない場合に、既に設定されている出力に応じて書き込みが行われることを記載したものと解することができる。

そうすると、上記の第4図(A)、(B)を追加し、訂正明細書第20頁第16行~第21頁第2行において、「ステップn4で、上記n1で入力された操作スイッチの入力データに基づいて(操作スイッチの入力がない場合は予め定めたデータに基づいて)絶対航行位置データとマーカ表示要素データを書き込む表示用記憶回路のアドレスを求め、その位置に記憶する。」と記載した補正が、「表示用記憶回路」の構成に対して、当初明細書及び図面に記載された内容を逸脱した要旨変更となる補正に当たるとは認められない。

したがって、本件請求人の「表示用記憶回路」に関する補正についての主張は、失当である。

(3)「操作スイッチ入力部」に関する補正について、

本件請求人は、当初明細書では、その第7頁第11~18行において、「縮小、拡大スイッチ21の設定出力はインターフェイス23を経て電子計算機19に導かれて、電子計算機19は設定された縮尺率に応じて蓄積用記憶回路16の記憶内容を表示器用記憶回路14へ書込む。このとき、縮小、拡大はブラウン管表示器1の画面中心点を基準として行われるが、航跡記憶2の現在位置2’を基準にして行わせることもできる。」と記載されているのに対して、訂正明細書第17頁第1~5行には、「縮小、拡大はブラウン管表示器17の画面中心点を基準にして行われるが、図示しないスイッチにより航跡2の現在位置2’を基準にして行わせることもできる。」と記載されているが、この補正は、当初明細書では、「縮小、拡大をブラウン管表示器の画面中心点を基準にして行わせる装置と、縮小、拡大を航跡記憶の現在位置を基準にして行わせる装置との2機種を作ることができる」としていたものを、同補正によって、「1つの装置において、スイッチを操作することにより、縮小、拡大をブラウン管表示器の画面中心点を基準にして行わせたり、拡大を航跡記憶の現在位置を基準にして行わせたりすることができる」という構成に変更しているものであるから、明らかに、「操作スイッチ入力部」の構成に対して、当初明細書及び当初図面に記載された内容を逸脱した要旨変更となる補正がなされているものである旨主張している。

しかしながら、当初明細書及び図面を精査しても、そこには、本件請求人の言うような「縮小、拡大をブラウン管表示器の画面中心点を基準にして行わせる装置と、縮小、拡大を航跡記憶の現在位置を基準にして行わせる装置との2機種を作ることができる」ことについての記載はどこにも見当たらない。

当初明細書の「縮小、拡大はブラウン管表示器1の画面中心点を基準として行われるが、航跡記憶2の現在位置2’を基準にして行わせることもできる。」(第7頁第15~18行)の記載は、ブラウン管表示器1の画面中心点を基準として行う縮小、拡大と、航跡記憶2の現在位置2’を基準にして行う縮小、拡大の、いずれも行うことができることを記載しているに過ぎないものであって、縮小、拡大をブラウン管表示器の画面中心点を基準にして行わせる装置と、縮小、拡大を航跡記憶の現在位置を基準にして行わせる装置との2機種を作ることまで記載したものであると言うことができない。

そして、訂正明細書に記載されている「縮小、拡大はブラウン管表示器27の画面中心点を基準にして行われるが、図示しないスイッチにより航跡2の現在位置2’を基準にして行わせることもできる」(第17頁第1~5行)ものは、当初明細書に記載されている「縮小、拡大はブラウン管表示器1の画面中心点を基準として行われるが、航跡記憶2の現在位置2’を基準にして行わせることもできる」ものの一つの例であるということができ、しかも、ブラウン管表示器において表示画面の切り換えをスイッチで行うようにすることは、本件出願前周知のことである。

そうすると、訂正明細書第17頁第1~5行において、「縮小、拡大はブラウン管表示器27の画面中心点を基準にして行われるが、図示しないスイッチにより航跡2の現在位置2’を基準にして行わせることもできる。」と記載した補正が、「表示用記憶回路」の構成に対して、当初明細書及び図面に記載された内容を逸脱した要旨変更となる補正に当たるとは認められない。

したがって、本件請求人の「操作スイッチ入力部」に関する補正についての主張は、失当である。

以上述べた通りであるから、願書に最初に添付した明細書または図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした昭和60年3月25日付け手続補正書による「マーカ表示要素データ生成手段」、「表示用記憶回路」及び「操作スイッチ入力部」に関する補正は、そのいずれも、明細書の要旨を変更するものには当たらない。

したがって、本件発明の出願日について、特許法第40条の規定は適用されないこととなる。

そして、そのとき、本件発明の出願日は、昭和54年4月27日であり、本件請求人が提出した甲第3号証、甲第5号証、及び、甲第6号証は、いずれも本件発明の出願後に公知の刊行物となるから、本件発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることができない。

したがって、本件請求人が主張する理由(ⅱ)によっては、本件特許が特許法第123条第1項第1号に該当するものとは認められず、本件特許を無効とすることができない。

以上の通りであるから、結局、本件請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成6年11月30日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

〔別紙2〕

〈省略〉

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